2-3

「着きましたよ」

ただいまマイホーム。このアパート単身専用なんだけど、人の形をしてるとはいえ呪霊だし多分セーフだよね…………うるさくしなければ隣人からの壁ドンも来ないだろうし。

「わ、めっちゃボロボロだね」

地下水路的なとこにハンモック置いてるやつに言われたくねぇよ!と喉まででかかったけど耐える。

「私が見た写真は綺麗だったんですけどね…」

少し怒りを含んだ震えた声で私が答える。
まぁそりゃ数時間もこの物騒な特級呪霊と一緒にいるからね私。
これくらいで済んでるの凄くないか!?誰か褒めて!!!!!!!
そして助けてくれ!!!!ホントに!!!!!!
と、切実な願いを心の中で叫ぶが、この声が誰かに届くことはないだろう。真人の口から詐欺られてやんのなんて煽る言葉が聞こえましたがスルースルー。
一々キレてたら身が持たないからね。
これぞ大人の対応よ!
最近生まれたばっかりのおこちゃま呪霊なんかにもう振り回されてやりませんよ!!と、自分の心を奮い立たせ、私はあの丸っこいドアノブに鍵を差し込みドアを開く。

「じゃましまーす!」
「邪魔するなら帰ってくださーい」

私の言葉なんて気にも止めず、真人は部屋にズンズン入っていく。せめて靴は脱いで欲しかった。そしてありとあらゆるドアを開けてそのままにするな。閉めろ。映画館でマナーは守ろうねって言ってただろ!!!!守れよ!!!!!!

「あ、トイレに呪霊いるじゃん」
「こいつのせいでトイレ使えなくて困ってるんですよ!!!!!!」
「はははウケる」

いや、マジで困ってるからね。はははウケる じゃないんだよ!!もう引っ越してから数ヶ月経っててそのまんま放置してるからね。トイレ1個分の賃貸料払って貰えませんかねあの呪霊。

「ていうか邪魔なら祓えばいいじゃん」
「いやいや、無理だから放置してる訳でですね……あ!そういえば術式ゲットしたんだった!真人に無為転変されてゲットしたのは不服だけど今なら出来る…はず!いくぞ!えー……あーっと……くらえ!ビーム!」

という掛け声とともに、呪霊に向けて指を指したが、特に何も起こらなかった。

えぇ……?めっっっちゃ恥ずかしいんですけど。というか適当すぎでしょ。なんだよくらえ!ビーム!って。もうちょっとマシなのなかったのかよ自分くんさぁ……!

「何も起きないね」
「ハハハ!でしょうね!!というか教えてくださいよ私の術式!どんなのか分かんなかったら持ってても意味無いでしょうが!!」
「えー?wどうしようかなぁ〜」

と、真人が単芝混じりに言う。コイツ完全に面白がってるな…。ホントに性格悪いよコイツ。こちとら夜にトイレ行けないとかいう死活問題かかえてんだぞ!そういうの関係ない呪霊にはわかんないだろうけどさぁ!!とりあえずもう我慢の限界なんでアイツに1発殴ってきてもいい!?…と、まぁこんな感じで頭ん中大騒ぎ。そんな私が冷静な判断なんてできるはずもなく。

「ホントにお願いします!!教えろ!!何でもしますから!!!!」
「へぇ、何でも……するんだ?」
「あっやっべ」

あれ!!!!????
何言ってんだバカ自分バカ!!!!?????
勢いで言っちまったもうダメだ転りんねさんの来世にご期待ください!!!!!!!!