6-1

「おじゃましまーす」
「おい不法侵入」
家で学校の課題を進めていたら真人がベランダからナチュラルに不法侵入をキメてきた。
洗濯を取り込んだあと鍵を開けっぱなしにしてしまっていたらしい。クソ、呪霊だから通報しても意味が無い……!

「あれ、まだこの呪霊祓ってないの?」
真人がトイレのドアを開きながら私に問う。
言えない。あの真人の腕フライドポテト事案から私は術式を使えていないなんて。口が裂けたとて言えない…!

「もしかしてあれ以来術式使えてないとか?」
「……いや、その」
「図星でしょ。それじゃあ俺が使い方レクチャーしてあげよっか?」
「遠慮しときマース」

私が嫌な顔をするとそれに反比例(いや比例?)して真人は機嫌が良くなったようで笑みを深くする。
帰れよ……と心の中で思いながら私は目の前の課題を進めていく。すると真人が「何してんの?」と、私の手元を覗いてきた。

「ここの計算間違ってない?」
「え?」
そう言われもう一度計算してみるが、出てくる答えはさっきと変わらず私は首を傾げる。

「どこが間違ってんだ……?」
「嘘だよ。そこの答えあってる」
「はぁ!?マジかよ手間かけさせやがって…!」

コイツの言葉を鵜呑みにした自分が馬鹿だった…。地味な嫌がらせしやがって…。
私は1度消した答えをもう一度書き直す。

「最近口悪くなってきてるよね。それが素?」
「あなたに気を使うのはなんか癪に障るなぁと」
「へぇー。うっかり手滑って殺しちゃうかもよ?」
「気をつけてくださいねー」
「君がね」

真人の言葉を軽く流し課題を進める。
……いや、進めたいんだけど真人が頬杖をしながらこっちをじっと見てくるからすごく気が散る。人に見られてるとなんかそわそわして集中できないんだよな。

「……あの」
「あ、そういえば伝え忘れるとこだった」

私の声を遮ってきた真人はなにやらズボンを探り始めた。おいおいまた改造人間とかキモいの出してくるなよ…?

「これ。夏油が今日ここに来いってさ」

と、真人から紙の切れ端を渡される。そこには住所と店の名前らしきものが書いてあった。
店の名前を検索してみるとそこは……

「個室焼肉……!!キタコレ!!」


ーーーーーーーー


「おーい夏油こっちこっちー!」
「………はぁ」

私は電車とバスを駆使して紙に書いてあった店へ集合時間の数分前に着いた。
ちなみに真人は着いてきたし、道中でちょっかいもかけてきた。帰れ。

「……ん?」

アイツ……メロンパンの後ろに誰かいるような……?

「あ!漏瑚ー!花御ー!陀艮もいるじゃん!」
「……は?」

え……?どゆこと?え?なんで来た?というかこんなに特級呪霊集まって大丈夫なのか?……いやいや、なんで私がそんなこと心配しなきゃならないんだ。一刻も早く、さっさと祓われてくれ。
私がため息をついていると突然背中をバンッと叩かれ前によろけてしまった。

「っうぉ!?」
「ははっ、めっちゃビビってるじゃん」
「そりゃあビビりますって!メンツがおかしいでしょメンツが!」
「そう?」
「私抜きでやってほしいですね」

切実に。タダ飯食えるのはいいけど1歩間違えれば死が待ち受けてるのヤバすぎでしょ。割に合ってないって。もしやこれが最後の晩餐?そうなのか!?誰か教えて!!

「残念だなぁ。せっかく1番上のコース予約したんだけど…そんなに嫌なら帰ってもらっても構わないよ」
「えっ!?」

しれっと会話に混ざってきたメロンパンの一言で衝撃が走る。
え?1番上のコースってマジ?え、そんな肉食えるの今日で最初で最後なのでは!?一番上のコース…特上の肉…!!

「い、いやいやいや!焼肉食べないとは言ってないですよ?冗談ですって〜!」
「良かった。流石にこの店に1人ではいるのは気が引けるからね。漏瑚、今回は燃やしちゃダメだよ」

恐る恐る漏瑚の方を向くとチッ、と舌打ちをされた。え、私なんかした?
立ち話もなんだし、ということでひとまず店に入ることにした。

「いらっしゃいませ。ご予約の方でしょうか」
「予約している夏油です」
「2名様ですね。お席へご案内します」

傍から見て私たちはどう思われてるんだろうか。袈裟着てる坊さんとJKっていう組み合わせどう考えてもおかしいでしょ。しかも夏油の名前使いやがってコイツ……

「ふっ、また嫌そうな顔したね」
「いちいちそれ伝えなくていいです……」

個室に着くと店員さんに注文の仕方を説明された。タブレットで注文できるらしい。流石高級店ハイテク。

「ていうか、なんでこんな特級呪霊大集合してるんですか?」
「今日は顔合わせも兼ねててね」
「え、なんですかそれ。聞いてないんですけど」
「サプライズだよ」
「過去一嬉しくないサプライズです」
「それじゃあ自己紹介よろしく」
「は」

すっごい雑な振り方されたんだが!?
視線が一気に私に集まる。待ってこういうの無理。平常心、平常心……。

「……転りんねです。最近真人にちょっかいかけられててすごい迷惑してます。どうにかしてくださ──」
「コイツは俺が見つけたおもちゃなんだー!すっごい弱いくせに反抗的だからうっかり殺さないようにね」

私が頑張って喋ってたのに真人が被せてきた。しかも肩まで組んできたし。…でも、「殺さないように」なんて真人が言うとは思わなかったな……?

■■■■■■余程その人間を気に入っているのですね、真人
「花御!貴様は喋るでない!!」
「おぉ………」
「思ったよりも反応薄いね。もっと騒ぐかと思ってたんだけど」
「まぁ……びっくりはしましたけど知ってたので」

もっと騒ぐかと、ってなんだよ失礼だな。メロンパンの中の私のイメージはどうなってんだ。まぁ確かに不思議な感覚ではあるけど、これ結構便利では?脳内に直接意味が流れ込んでくるから人混みの中とかでも会話できるじゃん!

「あれ?俺ってりんねに花御のこと話したっけ」
「え”っ……は、話してたんじゃ……ないですかねぇ………」
「いや嘘つくの下手すぎでしょ」
「こら真人。これでも頑張ってるんだからそんなことを言っては彼女が可哀想だよ」
「いやそれ絶対1ミリも思ってないですよね?」

こいつら単体でもめんどくさいのにコンボ決めてきやがったんだが??

「こんな感じでなぜか俺達のこと知ってるんだよね。俺が初めて会った時も名前叫ばれてマジでびっくりした」
「小娘。一体どこでその情報を手に入れた?」
「あー…えっと…私もよく分かってなくってぇ…。なんか知識としてあるっていうか、生まれたときから知ってる…みたいな」

私の前世ではこの世界は漫画でしたー!アニメ化もしてます!だから知ってまーす!なんて言えるはずないし。ていうか特級呪霊たちに詰められるの怖すぎるんだけど…圧と書いてプレッシャーがすごい。

「嘘ではないんだろうな?」
「も、勿論ですよ!嘘ついても私にメリットあります!?ないですよ!?」
「さっき嘘ついてたじゃん」
「……とりあえずお肉頼んじゃいましょっか!」
「あ、露骨に話逸らした」