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「空間認識を鈍らせる術式なぁ……無闇に術式使えんのは面倒やったわ」

星も見えない夜。呪霊を祓い終わった禪院直哉は懐からスマホを取りだし補助監督へ連絡する。
しかし他の術師の送迎に行っていたようで少しばかり時間がかかるようだった。

「しかも変な邪魔まで入って、今日は一段と疲れたわ。……はぁ、まだ迎え来ないん?おっそ……」

「ま、でも最後は動きが鈍なってくれて楽に祓えたわ」

何故動きが鈍くなったのか。そこは少し引っかかるところではあるがそういうこともあるだろうと、直哉は特に気にも留めなかった。

「っていうかコイツ全然起きへんやん。ようこんなところで寝れるなぁ」

直哉は階段の踊り場で横たわっている少女をどこか見定めるような目で見下ろす。そして数秒後ハッ、と小馬鹿にしたように笑った。

「胸がある分まだ真希ちゃんの方がマシやな」

ヴーッとバイブレーションとともにスマホから機械的な音が鳴る。どうやら迎えの補助監督が到着したようだ。しかし一向に(名前)が起きる気配はなく、スースーと寝息をたて、背中を丸めた姿勢で心地よさそうに眠っている。

「……まぁ、流石にそろそろ起きるやろうし、そのままでええやろ。報告とかいちいち面倒やわ」

微かに照らされる月の光を頼りに禪院直哉はその場を後にした。



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「まさか本当に君の術式が1級にも通用するとはね。まぁ、真人に効いたなら当然ではあるけれど……」

薄暗く人気のないビルに声が響く。そしてそんなビルの中で倒れ込んでいる一人の少女に影が落ちていた。

「さっきの帳が一定以上の呪力を持つものが入れるもので良かった。運良く君の術式を見ることが出来たよ」
君って意外と反射神経が良いんだね、いや危機的状況だったからかな……?
袈裟の男、もとい夏油は誰ともなしに呟き、不敵な笑みを浮かべる。

「さて、………」
階段の踊り場でスースーと寝息を立てている転りんねに夏油は手を伸ばす。

「はは、本当にヒビ入ってる」
りんねのスマホを手に取った夏油は電源をつける。指紋認証に阻まれるがそこに倒れている彼女の指を掴みスマホにかざしロックを解除する。

「電話番号と……

──うん。これでいいね」

ひとしきりスマホを操作すると、目線をすぐそこに横たわっているモノに移す。

「こんなところでよく寝れるな……」
依然として起きるの様子のない彼女に少し加虐心が湧いた夏油はいつもは前髪で隠れている額を中指で弾いてみた。が、指先すらピクリとも動かない。
その何もない反応が可笑しかったのか口元が少し緩む。

「私に会う度に殺気立ってる癖に。これじゃあまるで死体……いや、どちらかというと抜け殻かな?」

「ま、どちらにしろ同じ意味か」

閑散とした廃ビルに人影が見えたような気がした。