10-1

「……ぁ」
 目を開けると、そこは自室だった。窓に目をやると日はすっかり暮れている。一体気絶してから何時間経ったんだろうか。畳だったから幾分かマシなものの、少し体が痛い。
 ……なんかデジャブっていうか、今日の朝もこんな感じだったような。

「……って、真人は!?」
 反射的に体を起こし辺りを見回すと、真人は既にこの部屋から去っていたようだ。「ふぅ……」と安堵のため息をつくと、ツンとした臭いに気がつく。
 六畳和室には私と吐瀉物だけが残されていた。

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 この前は本当に散々だった……真人に腹パンされて吐いたと思えば、脅されて魂弄られて気づいたら意識飛んだし。私が起きた頃にはアイツが既に居なかったのは不幸中の幸いだったけど、ゲロはそのまんまだし、酒の缶も結局捨ててくれなかったし最悪だ。次会ったら1発殴……りはしないけど……できれば私の目の前で盛大にコケたりとかしてほしい。

 まぁ、そんな話はもういいんですよ。せっかくの旅行なんですからね!そう、今は夏休み真っ只中!ということ私はこれから東京に向かいます!たまには息抜きも必要ですからね〜と、言いたいところなんですが……。実際のところはクソメロンパンに言われて来たんですよね……。
 遡ること数日前。突然見覚えのないアカウントからメッセージがきた。アカウントの名前は夏油。なりすましで通報してやろうか。嫌な予感がしつつもメッセージを開くと、「8月■日にここに集合」という文とともにマップアプリのURLが貼られていた。
 まぁ全然無視しても良かったんだけど、そのあと文句のメッセージを送ったらなんかお高めの旅館予約してくれるらしくて!?検索してみたらなんかご飯めちゃ美味しそうだし、露天風呂とかあるらしくて!?まぁ……行ってもみても良いかな〜って……。ま、なんとかなるでしょ!
 そして私は旅館のご飯に心躍らせながら電車に乗りこんだ。

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「あ、あった……!」

 目的地付近の駅に着き、歩くこと数十分。先ほどSNSで見つけた良さげな洋菓子店に辿り着いた。
 駅から数分って言ってたはずなんだけど、場所が分かりにくくて結構時間を食ってしまった……。あと電車混んでるし、座りたくてグリーン車の席にICカードタップしたんだけどなんか席取れなくて結局立ちっぱなしだったし……。まぁでも集合時間までまだあるから!ケーキ買ったらどっかの公園とかで食べよう!
 さてさて、こちらの洋菓子店さん。バターケーキがめちゃ美味しいらしい。しかし、数量限定なので残っているかどうか……!
 「頼む、残っていてくれ──!」そう願いながら私はお店に足を踏み入れる。
 あ!ギリギリ2つ残ってるじゃん!!とりあえず1つは買うとして、せっかくだし他にも……

「すみませーん!バターケーキ2つ下さーい!」
「え”っ!?」
「ん?」

 聞き捨てならないセリフが聞こえた方を見るとそこには、全身真っ黒の目隠し白髪高身長……?
 ごっごごごご、五条悟!???!???!なんでこんなとこにいるんだよ!!!!!!