「なにこれめっちゃ森じゃん!?怖!!熊とか出そう……」
「俺熊見てみたーい」
「ぶ〜」
「■■■■■■」
「え、都内にツキノワグマいるの!?都内なのに!?」
「ええい騒がしいッ!!さっさと本題に入らんか!!」
「ちょっと漏瑚〜あんまりカッカしないでよ。周りに燃え移ったら花御が怒るよ〜?」
さっきまで都会にいたはずの私はいま、森にいる。おかしい、私は旅館に行くはずでは……?あとしれっと特級呪霊大集合しないでもらっていいですか。聞いてないんですけど。
「今日は彼女の術式の強化を手伝おうと思ってね。ほら前に言ったやつだよ」
「何故ワシがこの小娘に手を貸さねばならんのだ」
「まぁ漏瑚はまだ完全に回復してないみたいだし、あっちで療養に専念しててもいいよ」
「チッ……なら最初から呼びつけるでない」
「えー?漏瑚も一緒にりんねで遊ぼうよー」
「ぐぇっ……重い……」
真人はそう言いながら肩を組んできて、私は突然の質量に声をもらす。
呪霊って実態ないのにこの質量はどこからきてるんだ……。
てか、術式強化やるの!?今日!?私なんにも聞かされてないんだが!?報連相しろよ!!
「ねぇ漏〜瑚〜」
「やらんと言ったらやらん!そもそも真人、何故お主はその小娘に執着しているのだ」
「んー?面白いからかな。それ以外に理由っている?」
真人は漏瑚の問いへ澱みなくにこやかに答える。
「……フン、勝手にしろ」
そう言うと若干不機嫌そうな漏瑚は真人に背を向け、森の中へ消えていった。
え、面白いんだ私って……いや別に真人に言われても嬉しくないが?てか、面白いってだけで付き纏うのやめてくれます!?ストーキング反対!
「行っちゃった。仕方ない、今回は俺たちだけで遊ぼっか。陀艮は何して遊びたい?」
「ぶー……」
「鬼ごっことかいいんじゃないかな。真人たちが鬼で彼女を窮地に追い込んで……」
「サラッと窮地に追い込むことを提案しないでもらえます!?人の命をなんだと思ってるんだ!」
サラッと聞き捨てならないワードが羂索の口から飛び出してきた。
か弱い女の子虐めて楽しむのやめてもらっていいですか?
いや確かにさ、窮地に追い込まれることで主人公が覚醒!みたいなのは漫画でよくある話だけれども。いざ自分がされるとなると怖すぎるって。私はただの女子高校生なんだぞ!?
「話は最後までちゃんと聞くものだよ。別に私だって君を虐めたくてこれを提案してる訳じゃないんだ」
「それはさすがに嘘でしょ……今日の予定も全く教えなかったくせに……」
「ほら、今まで君が術式を使えたときの状況を思い出してごらん」
サラッと無視しやがったなコイツ……。
一縷の望みにかけて真人のほう見たけどダメだ。既に陀艮と花御と遊んでいる。これあなたの一言から始まった会話なんですけど。
「今まで……っていったって1回だけですよ?」
「あぁ、そっか覚えてないのか。気絶してたもんね、君」
「え、私知らないうちに術式使ってたんですか!?いつ!?」
「教えてほしい?」
めちゃくちゃ知りたい!!……と言いかけたけどやたらとニヤニヤしてる羂索を見て先程の興奮がスーッと冷めた。
こういうときってなんかあるんだよな……私賢いから知ってますよ。
「遠慮しときます」
「いやいや、遠慮しなくていいよ。本当は知りたいんだよね?」
「いや、いいです」
「……知りたいよね?」
「えぇ……めんどくさこの人……まぁ知りたいっちゃ知りたいですけど」
情緒どうなってんだよこのメロンパン。話したいなら勝手に話せばいいのに……。
ノリ悪いなとか思われてそうでムカついてきたな。スネ蹴っていいか?
「君、焼肉食べに行ったあと迷子になったろ」
「なんで知ってるんですか……ストーカーはもう間に合ってるんですけど」
私、コイツにもストーキングされてたのかよ!!事案だよ事案。職質されまくってほしい。
「ストーカー呼ばわりなんて酷いな……私がいなかったら君、危なかったんだよ?」
「危なかった……?」
そういえば焼肉の後、呪霊に襲われたんだっけ。そして階段で足を踏み外して……気づいたら家に帰ってきてたんだよな。
今思い返してみても謎が多すぎる……あと机に謎の書き置きがあったような……?
「あっ!もしかして……」
「そう、私が君を家に部屋に送り届けたんだよ」
やっぱり。あの書き置きはコイツのだったか。ということはつまり……
「現役JKの部屋に無断侵入したと……?」
「はぁ……良かれと思って送り届けてあげたのにな。迷惑みたいだったから、今度からは気絶してるところを見かけてもそのまま放置することにするよ」
「え”っ…………けっ……メロンパンさんってめちゃ優しいなー!気絶してる人を家まで送ってくれるとか慈悲深すぎるなー!また助けてほしいなぁ……」
「そう?ならいいんだけど」
セーフ!まぁ別に部屋にやましいもんとかないから全然平気ですよ!
いや、やましいもんはないけど見られたら困るものはあるな……。順平捜索日記とかその他色々メモとか。
「あの、念の為聞きますけど部屋漁ってないですよね……?」
「……ガキの部屋を漁る趣味はないよ」
「ならいいんですけど……って私ガキじゃないんですけど!!精神年齢二十歳超えてますし!」
「へぇー……」
「ガキがなんか言ってて草」みたいな目で私をみるな!!前世含めたら二十歳超えてるのはガチだからな!!いや、本気で受け取られてもそれはそれで困るんだけどさ……。
「話が脱線してたね。まぁ結論から言うと、君は呪霊に襲われたとき、無意識に術式を発動していたんだよ」
「無意識に……?もしかしてまたポテトにしてた!?」
「……ポテトってなに?私の聞き間違い?」
「え?私の術式って相手をポテトにする術式じゃ……」
「えぇ……前に何があったの……」
どうもメロンパンと話が噛み合わない。てっきり真人から詳しく聞いてるもんだと思ってた。術式強化の話もコイツからだったし……。あれ、その話ってポテトの前だっけ。
てか結局私の術式ってなんなんだ……?焼肉のときなんか話してた気がするけど、肉食べるのに夢中だったからあんまり覚えてないんだよな。
「とりあえず当事者に聞いてみては?」
私は向こうで遊んでいる真人を指差した。
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「……で、俺の腕ポテトにしたから、自分の術式を相手をポテトにする術式だと勘違いしてるんだと思うよ」
「なるほどね……。見てみたかったなその現場」
向こうで陀艮と花御と遊んでいた真人を呼び寄せ、例のポテト事件について証言してもらった。
いや……腕がポテトになるって何?もっとカッコいいチート術式が良かったよ。こう……指からビーム出るとかさ……瞬間移動できたりとかさ……!
「ね、話も終わったしそろそろ遊ぼうよ」
「そうだね。話してばっかりじゃ進まないだろうし……身をもって体感してもらったほうがいいね」
羂索と真人が並んでニヤニヤし始めた。嫌な予感がする。
身をもってって……もしかしてこれ、私の最初の考え間違ってなかったんじゃ……?
「……私を窮地に追い詰めて無理矢理覚醒フラグ立たせようとしてます?」
「それが一番手っ取り早いでしょ」
「脳筋すぎる……」