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「まずは自分の術式について理解するところからかな。そもそもイメージができてなきゃ扱えないだろうし」
「……結局私の術式ってなんなんですか」
 真人にぐしゃぐしゃにされた髪を手櫛で軽くとかしながら、ぐちゃぐちゃの脳内をなんとかまとめ、私はワンテンポ遅れて言葉を返す。

「あれ、前に言わなかったっけ」
「え?」
「ほら、前にみんなで集まったときにさ。まあ、あの時はまだ仮説の段階だったから術式の対象もまだ分かってなかったし、正確には術式の効果もちょっと違ったんだけど」
「……もっと簡潔に教えてくれません?」
「ハイハイ、君でも分かるように説明してあげるよ」
 真人は肩をすくめながら小馬鹿にしているような声色でそう言ったあと、私の術式について説明を始めた。

「君の術式は一定以上の呪力があるモノの構造を一新させる……んー、”生まれ変わらせる”感じかな」
「生まれ変わらせる?」
「そ。名前をつけるなら……『転生』かな。ピッタリじゃない?」

 真人が私の目を見て目を細めたのと同時に、ヒュッと自分の喉から不自然な音が鳴った。額から汗が滲む。

 …………ば、バレた?
 いやいやいやいやいや……まさか。私そんな変なこと言ったりしてない……よね?確かに原作未来については沢山口を滑らせたけど、自分転生の事について口を滑らしたことなんてなかったはず。未来を知ってる=転生者ってことにはならないし。真っ先にそれを疑うのはオタクだけだと信じたい。
 ……でも最初に真人に出会ったとき、なんか適当なこと言った気がするな。過去の私が何を言ったのかなんてもう思い出せませんが……いやでもまだワンチャンある!真人が適当なこと言ってる可能性あるし、聞き間違えの可能性だってある!……よな?とりあえずさりげなく探ってみよう。

「あの……なんで『転生』なんですか……?」
「別に簡単な連想ゲームだよ。生まれ変わらせる術式だから、転生。それと──」
「それと……?」
 真人がおもむろにニヤリと口を歪める様子を見て、私は固唾を飲み真人の次の言葉に身構える。

「この名前なら俺のモノって分かりやすくていいでしょ。ほら、魂に関係するワードだしさ」
「え、えぇ……!?」
 オイ!!なんかそれっぽい雰囲気出してきたから恐る恐る聞いちゃったじゃん!!なんだったんだよあの意味深なタメは!!こちとら心臓バックバクだったんだぞ!!数分前の私の心拍数返せよ!!

 「理由最悪なので却下で!」
 「もう決めちゃったので変えられませ〜ん」 

 真人に変な顔で煽られながら却下を却下された。その後クーリングオフを求めたが、「りんねはもう俺の玩具だから無理」と謎持論を展開され、私の術式の名前は『転生』に決定してしまった。個人的に紛らわしいし心臓に悪いので勘弁して欲しい。

 とりあえず、私が転生者ってことはバレてないっぽい。だって分かったらもう言ってるはずだ。コイツ性格悪いし。知ってたとして今言わないメリットがないと思うし!
 それより術式のことを考えよう。ようやく自分の術式の詳細を知ることができたんだ。これで順平救済の道がかなり進む……!


 『転生』(不服だがこの名称で呼ぶ)の術式対象は”一定以上の呪力があるモノ”……確か不義遊戯の術式対象も同じ感じだった気がする。つまり呪霊だけじゃなくて、人間とか呪具とかも術式の対象ってことでは?

「じゃあ物に呪力を込めて術式を使って武器を作れば……」
「あ、そういえば言い忘れてたんだけど、対象がどう変化するかは基本的にランダムっぽいんだよね」
「……えっ?」

 突然横から飛んできた重要そうな情報。一瞬何を言われたのか分からず、私は声の主を見つめたまま固まってしまった。

 ランダム……?ランダムって、何が出るか分からないのランダム?ランダム商品のランダム?………………ハァ!?!?今世でもオタ活の行く手を阻んでくるのかよランダムとかいう概念!!!!???ゆ、許せねぇーーーーー!!!!

「なんでそんな大切なこと先に言わなかったんですか!?最初の説明で言うべきだっただろ!!」
「後で言ったほうが面白いかなって」
「面白くない!!全ッ然面白くない!!」
「アハハ!まだまだ元気じゃん」
 私が頭を抱える横で元凶は楽しそうに笑っていた。ムカつく。

「なんかいい方法ないんですか……?」
「それを今からりんねが考えるんだよ」
「え、何も考えてなかったんですか?術式の詳細分かってたのに!?」
「別に俺はそこら辺はどうでもいいし。はい説明おわり」
「は?」
「じゃ、あとは自分でなんとかしてね」
 真人は私に背を向けて手を振りながら歩いていく。

「ちょっと待ってくださいよ!?教えてくれるんじゃなかったんですか!?」
「教えたじゃん。君の術式のこと」
「他にもありますよね!?呪力の使いかたとか!コントロールとか!いろいろ!」
「えぇー?」
「いやいやいや……なんで突然やる気無くなったんですか。さっきまでノリノリだったのに」

 さっきまで私の様子見て笑ってたくせになんで……気分屋すぎるだろ!せめてちょっと前の自分の発言くらいは責任持てよ!!これじゃあ救済が……
 ……いや待てよ。別に真人の手なんて借りなくても習得できるのでは?そもそも敵にレクチャーしてもらうとか正直こっちから願い下げですし?術式すぐに身につけて、運も味方につけて、真人に一矢報いてやる……!

「ソレ使って練習しててよ。気が向いたらアドバイスくらいはしてあげるからさ」
 真人は少し離れた木陰から改造人間を指差した。
 ……そういえばまだ悪趣味なゲームは続いてるんだった。術式で改造人間を殺せば私の勝ち……なんだっけ。

「……」

 気は進まない。進むわけがない。でもこれは強くなるために、順平を救うために必要なこと……。それにもうこの人は助からない。意識もほとんど残ってない……と思う。だから……

「──っ!」

 思い切って、私は拳を振り上げた。

ーーーーーーーーーーー

「はぁ……はぁ……もう、ダメ、つかれた……」
 どさっと音を立ててその場に座り込み天を仰ぐ。
 何回か殴ってみようとしてみたけど、生理的な嫌悪感が勝ってしまってなかなか改造人間を殴れない。ほら、私って人を殴ったことなんてない善良な人間ですし!?殴れるわけないじゃん!!あと普通に気持ち悪いし!
 そこら辺に落ちてる石に呪力を込めて術式を使ってみようとしたけどそれも失敗続き。そもそも呪力を込められてないのかもしれない。
 いや呪力を篭めるってなんだよ!?どうやってやるの!?やり方教えてよ!!ていうかこういうのって転生特典でちゃちゃっと使えるようになるもんだろ!!普通!!

「えー?まだ全然時間経ってないよ?」
 木の枝に腰掛けて静かに本を読んでいた真人が久々に口を開いた。
「いや、暑いんですよ……呪霊のあなたには分からないと思いますけど……」
「俺だって暑さは感じるよ。そんなにキツイならそこの川で頭冷やしてきたら?」
「……川の水ってそのまま飲んでも大丈夫なんですかね」
「べつに大丈夫でしょ」
 絶対適当に言ってるだろコイツ!!私が死のうが関係ないですもんね!?貴方には!!
 でも飲まなきゃどっちにしろ熱中症で死ぬしなあ……一縷の希望に望みをかけて飲むしかないか。なんとかなる、なんとなかなる……。

「はぁ〜……その言葉信じますからね……」

 若干立ち眩みがする自分の身体にムチを打ちながら川の水際まで歩くと、両手で器の形を作って川の水をすくい、こぼれないように急いで口の中へ流し込む。
 ……え、水うま〜〜〜っ!!!!??過去一美味いんだけどこの水!?生き返るー……これが自然の力ってやつなのか?それともめちゃくちゃ喉乾いてたから?どっちでもいいやもっと飲もう!!川の水うめぇ〜〜!!

「定期的に水を摂取しないと生きていけないとか人間って面倒くさいね」
「それは……まぁ、正直私もそう思いますよ」
 声がしたほうに目を向けると、いつの間にか真人はすぐ横で川の水を飲む私を観察していた。
 つい癖で真人の言葉に反論しようとしたけど、確かに定期的に水分補給したりご飯食べなきゃいけないのってめんどくさいか……いや食べることは好きだけど、こういう危機的状況に巻き込まれると面倒くささが勝つかも。それはそうとメロンソーダ飲みてぇ〜!

「じゃあさっさとその肉体捨てちゃったら?」
「は?私に死ねと……?」

 突然真人から遠回しに死を勧められ、思わず飲み込んだ水が逆流しかけた。
 またいつもの嫌味か、と思い言い返すために真人の顔を覗き込むと、私が想像していたいつもの悪ガキのような表情ではなかった。何か私の様子を窺うような、何かを考えているような──。

「君に死ねとは言ってないけど……あ、でも死んだらどうなるかは気になるかも」
「いまいち内容が……って、それ試さないでくださいね!?」
「えーダメ?」
「ダメ!!やめてください!!」

 先程見た真人の表情は消え、気づいたらいつものニヤニヤした悪ガキの表情になっていた。
 先ほど感じた違和感は、自らの声によってかき消されてしまった。