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「そういえば君、私が名乗った瞬間すっごく嫌そうな顔したよね。なんで?」
「……なんでそんなこと聞くんですか」
「純粋な興味だよ」

なんでそんなこと聞くんだよコイツ!!ほんっとにめんどくせぇなもう!!というかもしかして勘づかれてるのかこれ…?いやいやまさか…んなわけないよな…?とりあえずここはうまく切り抜けなくては…

「…あなたのことが嫌いだからですよ」
「うーん……君に何か気に触ることをしてしまったかな?」
「してますね。現在進行形で」
「差し支えなかったら何が気に触ってしまったのか教えてくれるかな?」

困っているような表情をしながら問われる。
えー…もう適当に返事していい?早く帰って欲しいし。あと起きたばっかりでお腹すいてるんだよね。あーあ、目の前のやつのせいで二度寝する予定が潰れちゃったじゃん。ついでにお腹も痛くなってきたし。空腹のせいかストレスのせいか、はたまたその両方か。どっちにしろ目の前のヤツのせいってことには変わりないですけどね!!

「……あー、まず私の貴重な時間を奪ってるって事がムカつきますし、あとめちゃくちゃ質問されるから答えんの面倒臭いし……朝起きたら不審者に勝手に家に入られた人の気持ち考えたことあります?どーせ無いですよね!だって……」
「だって?」

現在進行形で他人の体勝手に使ってますもんね

「……っあ、……」

っぶねぇ……!!あのまま喋ってたら私、やばい事になってた。最悪殺されてた。……でも今確実に顔に出てたな「あっぶね」って。
しかし、さっきと違って相手が深掘りしてくる様子はなさそうなので助かった。

「……ま、何はともあれ高専より先に君を見つけられて本当に良かった。危うく計画が水の泡になるところだったからね」
「……」
「まぁこれからも見つからないという保証は無いし……一応縛りを結んでおこうか」
「え?」

縛り……?まてまてまて。そこまでするの?は?このままだと退路が絶たれてしまうんですが?

「勿論君にも利があるものだから安心していいよ。他者との縛りを破った場合はどんな災いがいつやってくるかわからない……それは君も私も同じことだからね」
「べ、別に高専関係者に会っても話しかけたりとかしませんよ……?」
「あっちから話しかけられる可能性もあるし、まだ君を信用できていないからね。それとも君を監禁…」
「それは嫌です!!」
「だろう?」

そりゃあ嫌に決まってる。かんき……監禁なんてされたら外に出られないし、順平の救済が出来なくなる。
……今、逃げられるか?いやいや、焦っちゃダメだ。真人の時の二の舞になる。ここは冷静に慎重に……!

「とりあえず、縛りの内容を聞いても?」
「もちろんだよ。まず、君は高専関係者問わず他者に私たちのことを口外しないこと。そして私が提示するのは私たちが君の術式の強化を手伝うことだ」
「術式の強化?」
「君も最低限、自分の身を守れるくらいの力はつけたいだろう?今の君じゃ低級呪霊すら祓うこともままならないだろうし、現にあそこにいる呪霊も放置しているよね」
引っ越してから1度も使ってないトイレがあるほうに指指す。

ぐうの音も出ない。独学じゃ限界があるし…もしかしてこれは結構魅力的な提案なんじゃないか?
力がつけられれば順平を助けられるし、もしかしたら真人を祓うことだってできるようになるかも!
いやまてよ…?私の術式の強化って言ってもまず私の術式分かってないよね?真人でも分からなかったっぽいし。

「それは…そう、ですけど……」
「……今なら焼肉がついてくるよ」
「や、焼肉……?」
「そう焼肉。それも個室の」
「個室!?」

個室の焼肉なんて結構お高いところでは!?想像するだけでも涎が出てくるぜ!!で、でも…!!でも……!!家から送られてくるお小遣いで行けるようなところではない……!!この機会を逃せば私は……!!

「わ、分かりました…縛り結びます!」

メロンパンめ姑息な手段を使いやがって…!!食べ物で人を釣るなんて、なんて卑怯な……!!だが背に腹はかえられない…久々の焼肉…個室の焼肉、それ即ちお高い焼肉ッ……!!

「これで成立だね。くれぐれも破らないように気をつけてくれよ。」

あいつの目がいっそう細くなっていたことに私は気づかなかった。

ーーーーーーーーーー

「で!焼肉、いつ行くんですか!?」

先程のような猜疑心を含んだ目付きとは打って変わり、キラキラとさせた目でこちらを見てくる。

「あぁ……店は私が探しておくから後で伝えるよ。連絡先、はなんか心配だから真人経由で伝えるね」
「楽しみにしてますね!!個室のお高い焼肉!」

食い意地の張ってる子で助かったな…とりあえず縛りは結べた。これで彼女から情報が漏れることはないだろう。
けど、うーん……

「本当に大丈夫かなぁ……この子」
「?」

彼女は不思議そうに私を見つめていた。