「うっ……ぐ…」
強い吐き気に襲われ、咄嗟に手を口元へ持っていく。幸い…なのかは微妙なところだが、まだ吐けなかったのでとりあえず畳は無事。とにかくこの気持ち悪さから開放されたい。1番手っ取り早いのはやはり吐くことだろう。そう考えた私は辺りを見回して嘔吐スポットを探す。
マストな嘔吐スポットとして真っ先に思いつくのはトイレ…なのだが、生憎私の家のトイレは呪霊に占拠されている。のでトイレは無し。
…そういえば、今日はスーパーに行ったから良い感じの袋があった。そこに吐こう。過去の私ナイスすぎる。
「ふくろ、袋…あ、あっちにあった…」
体に力が入らないので、座ったまま…足を崩した体制のまま両手を使って滑って移動する。例えるならソリで滑るときの最初の動きみたいなヤツ!そう。ソレです。
あともう少しで袋に届きそう。…と思った瞬間、袋は何者かによって奪われた。
「…かえして」
「やだね」
「…はぁ」
「あれ、それだけ?なんかいつもより反応悪くない?」
てめえと酒のせいだよ!!!!!と今すぐ怒鳴ってやりたいが今はそんな気力すらない。気力っていうか体力がない。体調が悪い。頭が回らない。呼吸が浅い。冷や汗が止まらない。すごく、ねむい。
「かえして…ふくろ…吐きそ、だからっ……う”、はぁ、はぁッ」
「ふ〜ん?そんなに吐きそうならそこで吐いちゃえば?」
真人は気分が良さそうに、袋の持ち手を器用に指でクルクルと回しながらこちらを見下しそう言う。
…コイツ、楽しんでやがる。私が畳を汚したくないっていうのを分かってて言ってるだろ。掃除なるべくしたくないんだわこちとら!!あと畳にシミができてしまったら退去時にいくら請求されるか分かったもんじゃない。……最悪だ。酒なんて飲むんじゃなかった。しばらく酒がトラウマになりそう……あと5年は飲まない。でもお酒は悪くないし、わたしもわるくない。じゃあ誰が悪いのか。答えは明白。全部真人のせい。ぜんぶ目の前にいる呪霊のせい。私は悪くない。
「ほら、吐きたいならさっさと吐きなよ。んー、見てるだけもそろそろ飽きてきたし吐かないなら──……あ。」
真人が何か良いことを思いついたようにニヤリと笑う。…とてつもなく嫌な予感がする。
「そういえば前に君が言ってたよね。『吐けないなら私が腹パンして楽にしてあげましょうか?』だっけ?」
私のベットに腰掛けていた真人がおもむろに立ち上がりこう告げる。
「それ、そっくりそのまま今のオマエに返してやるよ」
「え…」
「1人じゃ上手に吐けないみたいだし、俺が手伝ってあげるよ。さ、君の胃の中身全部出しちゃおっか!」
「ははっ、ほんっとに性格悪い……」