10-2

「君……」
「え、あ、えーっと……」
 やっっっべーーーー……!!?勢いで振り向いてデカい声出したら目が合ってしまった!!いや目隠してあるからちゃんと目があったのかは分かんないけれども……。てか五条悟背高すぎるだろ怖!しかもなんかめっちゃ見られてる気がする怖〜……と思ったけどよくよく考えたら別に私ってなんも悪いことしてないからビビる必要なくないか!?やましい事なんて全くしてないし。むしろ被害者なんですけど!!助けてくれ〜!!
 まぁでも縛り結ばれてるから助け求められないんですけどね。なんで結んじゃったんだろうね……。
 過去の自分のやらかしを思い出して落ち込んでいると、五条悟が陽気な声で話しかけてくる。
「もしかしてバターケーキ欲しかったんでしょ!ごめんね〜残り全部僕が買っちゃった!」
「あっ、ハイ……そうですか……」
 いや、買っちゃった!じゃないんだよ!!お前どうせ1人で食うんだからひとつにしとけ!!五条悟とて許されないからなこんな所業!!せっかくこれだけをモチベにここまで来たってのに……もう帰ろうかな〜……。
「あー……そうだ。お詫びと言っちゃなんだけど僕にじゃんけんで勝てたら1つあげるよ。そこまで凹まれたら流石の僕も心が痛むしね」
「えっ!マジですか!?」
「マジマジ」
「最初はグー!」
「めっちゃ乗り気だね君!?」
「「じゃんけん──」」

「ありゃ、僕の勝ちだね」
「ぐぬぬ……」
 あっさり負けた……あいことかも挟まずに一瞬で負けた……!これが最強の力なのか……!?いやまだだ……ここで引き下がる訳にはいかない!私だってケーキが食べたいんだ!!!
「……3回勝負、でしたよね?」
「お、いいね〜。そういうの嫌いじゃないよ」

「「最初はグー!ジャンケン──!」」

「す、ストレート負け……!?」
「アハハ!弱すぎでしょ君!これじゃあ僕のケーキは譲れないかな〜」
「ぐぬぬ……せっかくここまで来たのに……!じゃんけんも最強なのかよ……私のバターケーキがぁ〜!」
「残念ながらコレは僕のケーキなんだよね〜……ていうか僕のこと知ってるんだ?」
「……へっ?」
「さっきじゃんけん”も”最強って言ったよね?」
「あ、あぁー………」

 空調が効いているはずの室内で額に汗が滲んだ。
 マジで何やってんだアホ!何回失言するんだよ自分!もはや記憶が枷になってるまでない?私だって原作知識でチート無双したいんですけど!?
 てかワンチャン捕まったら拷問とかされたりする!?五条悟にロックオンされたら逃げられる気しないんですけど!?詰んだのかこれ!?助けてくれーーー!!
 ……誰に助け求めてんだろうな私は。てかそもそも私に味方とかいる…?居なくね……?
 四面楚歌な状態を自覚し、不安になった私はぎゅっとズボンのシワを摘む。

「君、中学生?」
「え、いや……違います、けど……?」
 五条は目隠しから右目だけを覗かせ、六眼を通してじっと私を見つめる。
 やべ、中学生って言っとけばよかったかな。知り合いに高専関係者居て〜とかにすれば良かったかも……。いやでも嘘ってバレる可能性あるし……。てか六眼ってどこまで見れんだろ。年齢とかも分かったりします?いや聞けるわけねえよな〜……。
「だよね〜。高専にこんな子いたっけ……とりあえず場所変えよっか」
「い、嫌ですよ!こんな見るからに不審者な人に着いていくの!怖い!めっちゃ怖い!」
「その不審者とさっきまでノリノリでじゃんけんしてたでしょ君〜……ほら、行くよ」
「行きません!!離してくださいー!!」

 五条に腕を掴まれ洋菓子店から引きずりだされると、私は必死に抵抗して声を上げる。すると、周りは少しザワザワし始めた。
 あ、そうだ!その手があった!

「誰かーー!!不審者に攫われるー!!助けてー!!」
「ちょっ!?ストップストップ!ほら、ケーキ1つあげるからさぁ!ね!」
「コラそこ!何をしているんだ!手を離しなさい!」
 周りの誰かが呼んだのか、警察が叫びながらこちらに向かってくる。
「あぁ、いやそのこれは……」
 
 警察に注意を受け、弁明しようとした五条が手を離す。
 今がチャンスだ!

「すみません!!さようなら!!」
「あっ!」

 ダッシュでその場から離れ、とりあえず目についた路地裏に逃げ込む。
 警察のお世話になる最強とか見たくなかったけど背に腹はかえられない……まぁ、そもそもケーキくれなかった五条悟が悪いから!


「ぜぇ……ぜぇ……ケーキ……結局買えなかった……クソ、五条悟許せねぇ……」
「お疲れ」
「うわっ!?な、なんでここに……」
 背後から突然声をかけられ振り向くとそこにはメロンパンこと羂索がいた。
「さっきみたいにあまり大きな声出さないでくれると助かるよ。というか君、五条悟のこと知ってたんだ?」
「エッ!?いや……まぁ……知ってますけど?」
「まぁそうだよね。私たちのことを知ってるんだったら当然か」
「そりゃあまぁ知ってますよ……」
 あ、あぶねー……!まぁ五条悟は有名人だしセーフだよな!メロンパンも納得したご様子で……いや、なんかニヤニヤしてるわコイツ。ニヤニヤすんな!どっから見てたんだコイツは……。他人のプライベートをコソコソ覗き見しやがって……。

「っていうか交通費!出してくれるんですよね!?」
「あーはいはい交通費ね……領収書ある?」
「……ス〇カの場合って領収書どうやってもらうんですか?」
「無いなら払わないからね」
「交通費ぐらい払ってくださいよ」
 私が「ケチ」と羂索に言い放つと、羂索は眉を顰め、おもむろにスマホを取り出し大きくため息をつく。
「はぁ……せっかく君のために良い旅館予約してたんだけどなぁ……じゃ、節約のために今回はキャンセルってことで──」
「メロンパンさんはホント太っ腹だな〜!ありがたいな〜!前は焼肉も奢って貰っちゃったし!交通費出してもらう訳にはいかないですよ!旅館楽しみだな〜!!早く行きたいな〜!」
「そう?ならさっさと移動しようか。アレに見つかる前にね」

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「うーん……どうしたもんかなぁ〜アレ……」