バレンタイン

「寒い寒い寒すぎる!!」

 バタバタと音を立てながら急いで部屋に入り、外の冷たい空気を少しでも入れないように急いで扉を閉める。先程までゴミ出しのために数分外に出てきただけなのに、手先は完全に冷えきっていた。

「さすがに暖房つけなきゃ死ぬ……」

 今年はだいぶ寒くてガンガンエアコンの暖房を使っていたところ、1月の電気代が凄いことになっていたらしく親から連絡がきました。別につけっぱなしにしてる訳じゃないのに……なぜ?
 なので今月、2月はなるべく暖房という文明の利器に頼らずに生活したい……んですが。さすがに今日は暖房をつけさせていただきます!!昨日も一昨日も使ったけど、体壊したら元も子も無いしね!!仕方ない!!
 頭の中でそんなことを考えながら靴を脱ぎ、エアコンのリモコンを手にとろうとした……その時。

「ハッピーバレンタイーン!」
「ぐへっ!!??」

 突然玄関の扉が開き、真人が背後から勢いよく覆いかぶさってきた。
 背中に大きな衝撃を感じると、玄関の鍵を閉め忘れたことに今更気づいた。もっと早く気づいていれば……!

「……ん?バレンタイン?」
「あれ、今日ってバレンタインじゃなかった?」

 スマホを確認すると、今日の日付は2月14日。確かにバレンタインデーだ。
 バレンタインデーに渡すチョコといえば、アルミのカップに溶かしたチョコを入れた、いわゆる女児チョコを小学生の頃に作ってたっけ……最後に作ったのは前世の頃だからかなり前の話だけど。
 もうそんな時期かあ……なんて思いながら目の前にある腕を退かして真人から距離をとる。

「生憎、貴方にあげるチョコはありませんよ。そもそも作ってないんで」
「えぇーないの?ま、俺の今日の目的は渡すほうだからいいけどさ。はい!俺特製のチョコだよ♡」
「え、いらな……」
「まぁまぁそう言わずに!君のために作ったんだよ?ほら、あげる」

 真人がチョコが入っているであろう箱を渡そうとしてくる。私は受け取りたくないのでその箱を両手で押し返す。
 どーせロクでもないもの入ってるもん。顔見れば分かります。このニヤニヤしてる顔はなんか企んでる時の顔だ!!

「いりませんって!!ノーセンキュー!!私チョコ嫌いなんで他に当たって下さい!!」
「この前チョコクリームたい焼き食べてたよね?俺も食べたから覚えてるよ」
「……あれマジで許してませんからね」

 お店で買ったばかりのホクホクたい焼きを横から頭側ガッツリ食われたの、正直今年一番殺意沸いた。食べ物の恨みは恐ろしいんだからな!

「そのお詫びにチョコ作ってきたんだよ」
「嘘ですよね?」
「嘘だけど?」
「……」

 思わずため息が出た。部屋はもうすっかり冷えていたようで、薄らと自分が吐いたため息が見えた。
 とりあえずたい焼き分の金だけ置いて帰ってくれねえかなコイツ……。

「仕方ないなぁ……受け取ってくれないなら俺が食べさせてあげるよ。ほら、口開けて」
「受け取ります!受け取りますから!」
「えー?遠慮しなくてもいいのに。もしかして照れてる?」
「はぁ!?照れる要素なんて1ミリもねえよ!」

 真人の余計な一言にムカつきながら、チョコが入ってるであろう箱を取り上げる受け取る。どんなゲテモノが入っているのだろうかと恐る恐る箱を開けると、そこには手のひらほどの大きさをした少し歪な形のチョコがひとつ入っていた。
 パッと見た感じは色も普通だし、思ったより大きいぐらいで特に変わったところは無さそうだ。

「変なもの入ってませんよね……?」
「食べれない物は入れてないよ」

 真人の言葉をどこまで信じていいものか……まぁ食べるしかないんですけど。
 口の近くまで運び、匂いを嗅いでみるとしっかり甘いチョコの香りがした。一応チョコではあるらしい。少し安心した。泥とかを食わされるわけではないみたいだ。

「じゃあ……いただきます……」
「召し上がれ〜」

 私は目を瞑って、チョコを齧ってみた。すると、バリッと不思議な音が鳴った。
 なんか思ったより硬かったけど普通に甘くて美味しい……?でもさっきの音はなんだ?ナッツとか入れたのか?でも音的にはせんべいとかに近かったような……。あとなんかジュレ?ジャムみたいなやつも入ってる。チョコの甘さで味はよく分かんなかったけど……別に味は悪くない。

「美味しい?」

 真人が笑顔で尋ねてくる。変なもの食べさせられるのかと思ったけど、普通にチョコで拍子抜けだったな……。いや、何も無いのが一番なんですけど!

「まぁ、普通に美味しいですね……」
「そっか!隠し味が効いたかな」
「隠し味……?なんかナッツ?みたいなのとかジュレ的なやつ入ってましたね。何入れたんですか?」
「気になっちゃう?ヒントはね〜俺も食べたことあるやつ」

 真人も食べたことがあるもの……?直近でいえばたい焼き……いやたい焼きはあんな食感じゃないから違うか。じゃあなんだ?他に真人につまみ食いされた食べものといえば……

「めっちゃカリカリのポテトとか……?」
「ぶっぶー違いま〜す」
「えぇ……分かんないんですけど」
「じゃあ見せてあげるよ。俺特製チョコの隠し味は──」

 そういうと真人は「おぇっ」と嘔吐くと、びちゃびちゃと胃液のような液体と共に小さくされた改造人間達が真人の手のひらに現れた。

「正解は人間でした〜!」

「……は?」

「君がさっきまで美味しそうに食べてたのは、実はチョコでコーティングした改造人間ストックだったんだよ。ほら、大きさも大体同じでしょ?」

 そう言うと真人は私が持っている食べかけのチョコと真人が吐き出した改造人間を並べてみせた。

「美味しかったならまた作ってあげよっか。りんね甘いもの好きだもんねー」
「わ、わた……し……」
「ん?」

 手に持っていた食べかけの”チョコ”がカツン、と音を立てて床に落ちる。

「あーっ!食べ物粗末にしちゃダメでしょー?ほら、ちゃんと残りも食べなきゃ」
「や、やだ!食べたくない……」

 床に落ちた食べかけの”チョコ”を真人が拾うと、外へ逃げ出そうと扉へ手を伸ばそうとした私の口に無理やり詰め込む。吐き出さないように、口は真人の手で押さえつけられた。
 そして、そのまま扉にもたれかかるようにして、崩れ落ちるように私は座り込んでしまった。

「ん”ーッ!!」
「ほら、ちゃんと食べなきゃ大きくなれないよ?」

 真人は親が駄々をこねる子をあやすように、目線を合わせながら人食を強いてくる。
 口の中でどんどんチョコのコーティングが溶けていくのを感じる。それだけで気持ち悪くて気持ち悪くて仕方がない。
 吐き出したくても嘔吐いても真人の手が口を塞いでいるせいで吐き出せない。

「噛んで」

 ついに痺れを切らしたのか、私の鼻を摘んで咀嚼を促してきた。言われるがままにバリバリと咀嚼すると、ドロっと液状の何かが舌の上に乗る。
 この液状の何かが一体なんなのか、想像したくもない。そう思うのに想像してしまう。多分これは人間の──

 ゴクン、と大袈裟に嚥下すると口を覆っていた手と鼻を摘んでいた手が私から離れていく。

「どう?美味しかった?」

 口の中は甘ったるくて、それでいて酸っぱかった。