「……は?」
こいつ今なんて言った?人間の殺しかた?いやいや、勘弁してくれよ。私人殺しになんてなるつもりないんですけど。
「あれ、俺まだハンデの説明してなくない?」
「そういえばしてなかったね」
「いや、だからいいですって」
「そんな遠慮しなくていいって〜……ね?」
「っ……」
こちらの話を聞く気は微塵もないらしい。
私は反論するために口を開こうとしたが、目の前の真人に気圧されて口を噤んでしまった。
「りんねも静かになったことだし、ハンデの説明をしよっか」
「俺の代わりに改造人間に術式を当てて、かつ殺せたら君の勝ちってことにしてあげる。どう?ソイツなら動かないし、マトにピッタリでしょ」
「……私に人を殺せと?無理ですよそんなこと」
改造されているといえど、アレも元は人間だ。あの化け物が人間だと私は知ってしまっている。人間だと分かっていてアレを殺せるほど私はイカれていない。
心身ともに拒否反応を示している。殺してしまったらもう戻れない。ここで殺してしまったら、殺せてしまったら、私はこれからも人間を殺さずに生きられるのだろうか?
「どうしても殺せないんだったらいい方法があるよ」
「いい方法……?」
「君の魂を弄って感受性を鈍くさせたり、恐怖心とか無くさせたりとか……そうすれば君でもできると思うよ?」
「魂弄られるのはもう嫌です!っていうかそういう問題じゃないんですよ!!」
少し期待してしまった私が馬鹿だった。
人を殺しやすくする方法じゃなくて、人を殺す以外の方法が欲しいんだよ私は!
「えー?結構譲歩してあげてるんだけどなあ……じゃあもう、ハンデ無しでいい?あーあ、まだりんねで遊びたいと思ってたんだけど仕方ないか」
目の前にいる真人が大きくため息をつくと、先程までニヤニヤとしていた目と打って変わりつまらなさそうに私を見下ろしてくる。
「ねぇー、殺したら怒られるんじゃないの?」
もう片方の真人が真人に話しかける。
「別にいいでしょ。コイツは俺の玩具だし、計画に支障はないんだからさ」
「ま、それもそうか」
真人同士の会話を他人事のようにぼーっと眺めていると、おもむろに二つの双眸がこちらに向けられる。
「え……いやいや!待って待って!!やらないとはまだ言ってないじゃないですか!」
「じゃあ早く決めてよ。やるの?やらないの?」
「……えっと」
「10秒以内に決めてね。はい10〜」
「え、えっ」
「ほらほら、早く決めないと死んじゃうよ?君が」
「あ、あ……」
人間として大事なものを失うか、死ぬかの二択。
いやいや、まだ死ぬと決まったわけじゃない!もしかしたら、ここで真人を倒せる……わけ、ないよな。分かってる、そんなことはとっくに知ってる。
今までは確実に手加減されていた。だって私はいま五体満足に生きている。普通は特級呪霊に会った時点で終わり。死体が残ってたらラッキーのレベルなのだ。でも私は生かされている。真人の気まぐれで。
死にたくないし痛いのは大嫌いだ。でも、私にはやらなくちゃならないことがある。なら、ここで私が取るべき選択は?
「さーん」
「わ、わたし……」
「にー」
「わたしは……っ」
「いーち」
「こっ……ころし、ます。」
「……」
「わたし、ころします。だから……教えてください、人間の殺しかた。」
「……ックククク……アハハハハハッ!」
真人の笑い声が辺りに響く。それはそれは楽しくて仕方がなさそうな笑い声が。
私はそれを呆然と見つめることしかできなかった。
ひとしきり笑い終えたのか、「ふぅ」と一息つくと真人はこちらに手を伸ばす。
「お前も少しは賢くなったんじゃない?えらいえらい」
そう言うと真人は私の頭を撫でた。その手を振り払う力はおろか、嫌悪感を感じる余裕すらなかった。
「賢い選択をした良い子のりんねには、とびきり優しく教えてあげよっか」
頭がクラクラして、距離感がうまく掴めない。きっとこれは暑さのせいじゃない。目の前の真人のせいだ。ぜんぶこいつのせいで、なのに、なんでわたしは───
先程まで2人だったはずの真人が一人に戻ったタイミングも、私には分からなかった。